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りゅーかんの高専キャリア教育論

高専生の価値、高専生のキャリアについて議論するためのブログです。

データで見る高専生の進路選択~就職vs進学 正解はあるのか~

高専についての基礎知識

3行でまとめると

  • 歴史的に高専生は製造業の技術者として重宝されてきたよ
  • 「高学歴化」「製造業の衰退」などの要因に伴い進学率は高くなっているよ
  • 就職か進学か、答えは自分のキャリアプランに依存するよ

高専生の進路選択の歴史

高専が「中堅技術者・中小企業技術者の輩出」という産業界のニーズに応える形で創設されたという話はこちらでした通りです。その背景がベースにあるので当然ですが、設立当初の高専卒業生はほぼ全員が就職という選択をしていました。その頃の先輩の話を聞くと、『当時は大手メーカーに集団就職してたよ。』と、僕が高専生だった時では既に想像できない熱い需要があったようです。

下の図は高専機構が作成したものです。バブルがはじけるまでは殆どの学生が就職していたことがわかりますね。また、現在でも約半数の卒業生が製造業に就職しているようです。時代背景だけでなく、データとしても高専と製造業の密接な繋がりが見えてきます。

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高専卒業生の進路状況(高専機構まとめ)

そこで気になったのが、バブル崩壊以降、成熟期~衰退期に入っているように思われる製造業の雇用状況です。こちらの図は、高専卒業生の就職率と製造業の雇用者数を時系列で入力したグラフです。赤いグラフ(就職率)が左軸となっており、バブル崩壊以降急激に就職率が減少し、55-60%程度で下打っていることがわかります。一方、製造業雇用者数(黄色いグラフ)もバブル崩壊後少ししてから急激に減少しています。この20年間で600万人の雇用が消えていると思うとすごいですね。

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高専卒業生の就職率と製造業雇用者数推移(菅野まとめ)

他にも様々な要因がある前提での考察ですが、全体として「製造業の雇用が滞ったことで、高専卒業生の就職率が低下している(進学率が向上している)」ように見えます。製造業への就職が主要な選択肢であったことを鑑みると、少なからずその影響は受けたのでしょう。

進学して得られるもの、失うもの

さて、進学率が高まっているというデータがあるものの、「就職した方がいいのか、進学した方がいいのか」「進学したら修士まで行ったほうがいいのか」などの疑問にこのデータは答えていません。そこで、進学により得られるものと失うものという切り口でその点を考察してみたいと思います。

進学して得られるもの

学歴です。理工系は猫も杓子も大卒・院卒の時代です。研究開発の道に進みたければ、最低でも修士、基本は博士という学歴が求められていると思います。というか、大手企業を中心にそういった雰囲気が醸し出されているのは事実です。では、学歴によりその後の人生で何が得られるのでしょうか。

少し話が逸れるのですが、企業の都合から採用を考えてみましょう。企業の採用担当者は「優秀(そう)な人材を出来るだけ多く採用すること」で自身の評価が高まります。そこで、採用プロセスの設計時には「出来るだけ効率的に高学歴な学生にアプローチする」ことを考えます。「優秀な人材」と「高学歴な学生」の間に因果/相関関係があるかどうかは微妙なところなのですが、「学歴が高い人は、平均してまともな人材になっている」という常識らしきものが背景にあるようです。とにかく、このような状況を背景として「学歴フィルター」なるものが実態として生まれることになります。学歴フィルターが生まれた時から、書類面接の通過率と学歴が強く相関するようになります。一般論として、大手メーカーの人事担当者にとっては「高専卒業予定の成績優秀な学生」よりも「東大理学部卒業予定の成績普通な学生」の方が安心して面接に通せる人になるわけです。

そんなわけで、高専生が進学して高学歴社会の一員になると、「就職活動の幅が広くなる」という効果が多少なりとも出てくることになります。特に、採用要件として明に暗に「修士/博士」を求めているようなポジションを狙いたい場合は、進学という選択は必須となります。一方、幅が広がるといっても「自分の求めている就職先の選択肢が増えるかどうか」はまた別問題なので、大きな意味があるかどうかは本人次第となります。 

また、高専により行われている高専研究により分析されたデータによると、

  • 学士取得…「年収が上がる」「昇進度合いは変わらない」
  • 修士取得…「年収が上がる」「昇進しやすくなる」「仕事満足度が下がる」

ということは言えるそうです。高専生の就職先の約半分は製造業の技術職なので、そこを希望している場合は大学/大学院に進学する意味は多少なりともありそうですね。まぁ、データ上は雇用者数が減っている衰退産業なのですが。

進学して失うもの

時間です。先ほど「進学により年収が上がる」という話をしましたが、既に「終身雇用」や「大手企業は安心安定」という実態がなくなりつつある状況を鑑みると、「進学すると大企業に入りやすくて給料も上がるけれど、10年後にその会社が倒産したらいずれにしろ人生厳しくなりますね」と言い換えてもいいかも知れません。そんな不安定な時代に社会人として安定して生きていくためには、組織に所属して終わりではなく、「自らの腕を磨き続ける」努力を通じて市場価値の高い人材であり続けなければなりません。

そういった視点で考えると、「高専卒で就職して腕に磨きをかけ、社会の中で市場価値を高める」というのは選択肢として有効かも知れません。同じ経験を積むなら早いほうがいいに決まってますし、社会経験を通じて成長するスキル/スタンスは大学でも大学院でも学べないものが殆どだからです。そもそも高専では大学卒レベルの学業が済んでいるので、学歴が必要という以外に大学に行く明確な理由はあまりありません(研究を続けたいなどの場合はもちろん話が変わります)。

とはいえ

ただし、(当たり前の話ではありますが)「自分が何をやりたいのか」が明確でなければ、どの道で腕を磨けばよいのかも明確にならないため、そうでない場合は進学により時間的猶予と学歴を得る選択肢が妥当なのかも知れません。以前、高専3,4年生向けにキャリア講演をしてアンケートを取ったのですが、自らのキャリアプランが明確でないため進学したいという回答が少なからずありました。個人的には、「就職か進学か」という議論をしている場合ではなく、その前段階としての学生のキャリアプラン作りにもっと力を入れなければならないと思っています。

キャリア教育の必要性

僕は高専生向けのキャリア教育をしたいと思っているのですが、その理由は「適切な情報を得て、自らの意思に基づいてキャリアを選択する」ということが十分に出来てないと考えているからです。就職か進学か、正解なんてありません。重要なのは、学生が自らのキャリアを選択することを大人が支援すること、そしてその結果も支援することだと、僕は考えています。

 

「あなたは何をしたいの?」に答えることが、社会人としての第一歩かもしれません。

 

 

 おまけ:自分を知るための分析本

さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす

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