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りゅーかんの高専キャリア教育論

高専生の価値、高専生のキャリアについて議論するためのブログです。

【2016年2月6日】シンポジウム「高専教育の地平」

活動報告

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3行でまとめると

  • 実践的卒業研究「社会実装プロジェクト」が盛り上がってるよ
  • 国際機関OECDによると高専は日本の中で最も優れた高等教育機関だよ
  • 高専の社会的評価向上のために頑張っていきましょう

概要

文科省採択事業である「イノベーティブ・ジャパン」プロジェクトの活動成果報告会。「高専教育とは」「高専教育の未来とは」をテーマとし、同プロジェクトの中心をなす「社会実装教育」についての成果報告と、著名な教育学者により研究された「社会における高専の立ち位置」「高専教育と卒業生の社会からの評価」についての発表/考察がなされました。

「イノベーティブ・ジャパン」プロジェクトとは?

www.innovative-kosen.jp

イノベーティブ・ジャパンは「社会が大きく変化している中で、現在の高専のあるべき姿はどのようなものなのか。」という疑問に対して、「社会実装教育」を中心とした教育に答えを見出そうとしている高専発のプロジェクトです。2012年度から5年間の事業として文科省の予算で運営されています。

事業は大きく2つの活動により成り立っています。一つは、社会の現場で課題解決を行う実践的卒業研究「社会実装プロジェクト」で、もう一つは、これまで殆ど調査されてこなかった高専の実態を多角的な視点で研究する「高専研究」です。これらの活動を通して、社会における高専の立ち位置の変遷を理解するとともに、PBL(課題解決型学習)/AL(積極的学習)による高専教育の更なる発展の姿を模索することを目的としているようです。

社会実装教育の成果報告

普通、高専5年生は研究室に所属して与えられたテーマの研究を行うのですが、その代わりに「自ら社会課題を見つけて解決してしまおう!」というのが社会実装教育の取り組みである「社会実装プロジェクト」です。プロジェクトに参加する学生はチームを作り、社会の現場(病院、企業、省庁など)に足を運び、自分たちの技術力を活かして実際に課題を解決します。このプロセス全体を通して「主体性」「課題解決力」「チームワーク」「社会性」などの総合力を高め、付加価値の高いエンジニアを育てることがプロジェクトの教育的目的となります。

病院における滴下調整支援デバイスの実証実験

報告の中で取り上げられていたプロジェクトの一つに、沼津高専の取り組み『病院における滴下調整支援デバイスの実証実験』があります。病院では点滴の管理・調整が適切に行われる必要がありますが、滴下速度の調節はアナログなスキル(時計を見ながら感覚的に調節)となっており、多忙な看護師の方々にとって大きな負担となっています。それを支援する自動調節機器も既に販売されているのですが、重症患者には使用されているものの通常の患者には使用されていません(おそらく価格の問題だと思います)。そこで、沼津高専のチームは「LEDにより適切な滴下タイミングが可視化される」簡便なデバイスを開発しました。「作っちゃうんだ!」というところが既にすごいのですが、報告で最も強調されていたのはそこではありませんでした。

プロジェクトでは実際の病院で活動を行っていたのですが、メディアでも報道されている通り医療従事者の忙しさは尋常ではありません。そのへんの学生が来てものづくりをしていても「なんだこいつは」から始まると思うんですね。一方で、現場の方々に使って頂けなくてはプロダクトの価値は0。そこで、学生のチームは「毎日顔を出して覚えてもらう」「仕事を手伝って信頼関係を構築する」「信頼関係の上で率直な意見を頂く」という現場実装のためのプロセスを積み重ね、実際に病院で使って頂けるプロダクトへと改良を加えていったそうです。現場のリアルな業務フローや感情を理解してプロダクト開発が行える人は世の中でも希少価値の高い人材となりそうですね。

他のプロジェクトも含め学生の成果発表会の動画がありますので、興味のある方は是非ご覧ください。

社会実装コンテスト最終プレゼン - KOSEN発「イノベーティブ・ジャパン」プロジェクト

高専研究の成果報告

 高専研究のパートでは、高等教育研究の第一人者である天野郁夫先生より「日本的高等教育システムの中の高専」という題目で基調講演がなされました。講演の中で先ず先生が仰っていたのは、「2006年にOECD経済協力開発機構)が行った日本の高等教育政策のレビューで唯一高く評価された教育機関は高専」という点でした。社会の中では非常にマイノリティな存在である高専ですが、教育機関として優れた評価を受けていることに誇りを持って欲しい、という先生の意図を感じました。

一方で、歴史上の高専設立の背景には産業界の「中級技術者の早期育成」という意図が明確に存在しており、高度経済成長期を通じて実際にその目的が十分に果たされた反面、近年の高学歴化社会における高専卒業生の相対的な市場価値は下がらざるを得ないのではないか、という懸念も話題として出ていました。個人的な肌感としても、国立大学生に劣らない学力を持ち、10代後半という若い時期に実践的な工学教育を叩きこまれた高専生の市場価値は、十分に社会に認められていないのではないかと思っています。高専の未来を考える上では、「社会のどのようなニーズに高専卒業生が応えていくべきか(或いは目指すのか)」という定義を見直す必要があると強く感じました。

他にも、高専卒業生数千人へのアンケート調査を統計的に処理し、「年収」「昇進」「仕事満足度」などが高専生活のどの要素によって影響されるかを調査した結果も披露されていました。成績が良くても昇進できるとは限らない(むしろ汎用能力が重要)などの面白い結果が出ていました。印象的だったのは、「高専卒業生の分析結果は統計的に綺麗に出る」という矢野眞和先生のお言葉でした。普通の大学生に対して同じような分析を行ってもバラつきの多い結果しか出ないということで、つまり、高専生は同じような属性を持った人間として括ることが出来るということです。社会の中の高専卒業生のシェアは学年あたり1%程度なのですが、同一属性の人間という括りでは非常に大きな組織になれるかも知れませんね。変な人の集団になりそうですが。

非常に多くの調査研究や議論がウェブで公開されていますので、こちらの興味のある方は是非ご覧ください。

高専研究 - KOSEN発「イノベーティブ・ジャパン」プロジェクト

感想

 全体として非常に良い取り組みだというのは当然として、僕が一番驚いたのはこれが「学校発のプロジェクト」として動いていることです。ある意味で、このプロジェクトの目的の一つは「これまでの高専教育のあり方を否定する」ものでもあり、保守的な教育機関であればそもそも実施されようのない類の活動だと思うのです。そういった活動を学校が主体的に取り組むということ自体が、非常に高専らしいと思い誇りに思いました。

おまけ:当日のアジェンダ

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